著名ドクターに聞く。医師が医療機器メーカーに求めるものは?vol.2:日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第二病院 副院長 吉田幸彦 先生 

この記事を書いた人
ディレクター 片岡信寿

ジェイシーエルコンサルティングのディレクター。医療機器業界経験は20年以上。最初に入社した医療機器代理店が倒産。外資系医療機器メーカーに入社し、営業から営業マネジャー、地域営業部長まで務める。

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吉田幸彦先生は、難治性の不整脈・心不全治療のエキスパートとして、心房細動に対するカテーテル・アブレーション(心筋焼灼術)や心不全に対する心臓再同期療法(両心室ペーシング)の豊富なご経験をお持ちで、安全・確実かつスピーディな治療を行うエキスパートとしてご活躍されています。

一般の人々に向けて不整脈の危険性を訴えるなど市民講座での講演も数多く行われております。また、カテーテル・アブレーションの技術を若手医師らに伝承する勉強会にも講師として精力的に参加し、次世代を担う循環器医師の育成にも尽力されています。

Interviewee: 吉田 幸彦先生
日本赤十字社愛知医療センター 名古屋第二病院 
副院長/循環器内科部長(兼任)
 
専門分野:難治性不整脈・心不全の非薬物療法、心筋焼灼術(カテーテル・アブレーション)
最終学歴:名古屋大学医学部医学科卒業
 
 
 
 
略歴:
1989年 名古屋第二赤十字病院 研修医 その後循環器内科医として勤務
 

1996年 愛知県立尾張病院 循環器内科 医長

1998年 名古屋大学医学部附属病院 医員

2000年 名古屋大学 論医博2794号

2001年 名古屋第二赤十字病院 循環器内科 副部長

2008年 名古屋第二赤十字病院 循環器内科 部長

2016年 名古屋第二赤十字病院 第一循環器内科 部長

主たる学術認定医・専門医等:日本内科学会専門医・認定医、日本循環器学会専門医、日本心電学会評議員、日本医師会認定産業医、日本不整脈心電学会認定不整脈専門医・評議員

主な著書:『両室ペースメーカー植え込み手技のTips&Tricks 第2版』(2010年 三輪書店/共著)

  今回は、吉田先生に医師の立場から見た医療機器メーカーに求めるものについて、JCLコンサルティング、ディレクターの片岡がお話を伺いました。  

 

片岡:吉田先生、本日はよろしくお願いいたします。まず、現在(2022年7月時点)でコロナ禍の状況が2年以上続いておりますけども、症例数の推移や治療に与えている影響を教えて頂けますでしょうか。

吉田先生:最近、アブレーションの症例数が少し減りました。その背景にはオミクロンの流行が関係しています。重症化はしにくいですが、病棟の中に1人でも感染者がいると、クラスターが起きることがあります。クラスターが起きると、病棟を閉鎖せざるを得なくなりますから影響が出ますね。

特に循環器病棟が閉鎖してしまうと、PCIとかアブレーションができなくなるので困ります。短期的な影響だったので、紹介患者数は元に戻りつつありますが、心房細動で病状が慢性化している方が増えているようにも思います。  

 

片岡:医療機器メーカーの病院への立ち入り規制も厳しくなっています。コロナ禍において企業の営業、もしくは本社スタッフとのコミュニケーションの方法はどのように変化しましたでしょうか。

吉田先生:あまり変わっていないのが現状です。コロナになって立ち入りが厳しくなった病院が多いようですが、当院は発熱のチェックはしっかり行いながら、比較的自由に出入りできるようにしています。

医療機器メーカーって、立ち会いを通して新人の方を育てないといけないですよね。そういう意味でも、うちの病院では、メーカーさんの立ち会いを受け入れていて、最近では全国から勉強に来られたりしています。 やはり他の病院の状況などはメーカーさんから情報を得ることが多いのですが、立ち会いを通じたコミュニケーションが少なくなると、なかなかそういった情報が入ってこなくなると思いますね。  

 

医療機器メーカーの営業は、新しい治療を広める同志や戦友のような存在。

片岡:ありがとうございます。では、インタビューの本題のほうに入らせて頂きたいのですが、今回、吉田先生のような著名な先生がどのようなことを考えながら医療機器メーカーと接していらっしゃるか、という観点からお話をお伺いできればと思っております。最初に、医師の立場として、医療機器メーカーの営業は一言でいうとどのような存在でしょうか。

吉田先生:現在の私があるのも、お世話になった営業の方々のおかげだと思っています。他院に先駆けて心臓再同期療法(CRT)を実施できたのは、間違いなく当時の営業の方のご尽力によるものでしたし、おかげでその後も様々な新規の治療を経験させて頂く事ができました。

メーカーさんと一緒に日本でそれまで行われていなかった治療を広めていく機会が多いので、営業の方々は戦友であり、同志という感覚ですね。そのように感じられる多くの営業の方に出会えた幸運に感謝しています。

最近は左心耳閉鎖術という治療を行っているのですが、このような新しい治療を行う場合、もちろんですがメーカーさんも経験の蓄積が少ないので、私達とディスカッションしながら進めます。そうすると、お互いにメキメキと上達していくんです。 そのようにして一緒に手術に立ち会って頂きお世話になった営業の方々は皆さん出世されていますので、少しは恩返しできたかな?とも思っています。これから医療機器メーカーの営業をされる皆様にもその様な出会いがあれば良いなと思いますね。  

 

片岡:他に、先生が日本への導入時に携わられた治療にはどのようなものがありますでしょうか。

吉田先生:日本への初期導入時に携わったのは、さまざまなアブレーションですね。たとえばホットバルーンやクライオバルーンアブレーションです。

当時、日本人ではあまり経験のある医師がいなかったので、外国のプロクター医師が来て教えてくれました。その後、メーカーさんと相談しながら教わったことを日本人に合ったやり方に変えていきました。 今後は、パルスフィールドという新しいエネルギーが出てきて、2年後ぐらいに導入になるでしょう。それもエネルギーがRFからDC(直流通電)に変わるので大きな変革があると思います。    

 

医療機器営業へ求めるもの。知識も重要だが、大事なのはやはり「人間性」

片岡:吉田先生の考える「医療機器のメーカーの営業担当者に求められるもの」を教えて頂けますでしょうか。

吉田先生:担当する医師が何に関心があるか、何に困っているかを考えて、それを解決できる情報提供や提案が必要だと思います。 具体的には、他施設での治療の動向や最新医療機器の情報、病院として取り組むべき新たな試みの提案などです。症例数の少ない病院では、企業が企画する勉強会や、他施設の見学会へのお誘いなども喜ばれると思います。

もちろん、医療機器の基礎知識が必要なのは当然なのですが、それだけではダメだと思っています。担当する医師に喜んでもらえる事よりも、自分の営業成績を上げる事を優先するような方は望ましくないですね。

結局、大事なのは人間性です。例えば「やる気」。立ち会いにおいて下地がない初心者であっても、やる気をもって取り組んでくれれば一緒に挑戦できるし、成長も支えてあげられます。 「笑顔がいい人」も良いですね。やはり一緒に仕事をして気持ちのいい営業さんだと、その製品を使ってみようかなっていう気持ちにも人間だから当然なります。うまくいかないことも多々あると思いますが、その時に「ごめんなさい」と素直に謝れる人もそうですね。  

 

片岡:過去に医療機器営業のサポートがあって良かったと思えるエピソードはございますか。

吉田先生:ペースメーカーやICDの遠隔モニタリングシステムが始まった時に、片岡さんから運用の指針となる標準作業手順書の作成、看護師を含む多職種での管理を始めて、それを病院のモデルケースとして他院へも発信してみては?と提案がありました。

ペースメーカーの遠隔モニタリングシステムはチーム医療の重要な領域ですから、この提案は非常に有り難かったですね。 手順書を作成する前は認定看護師しか携われなかった業務でも、手順書を作成したことで全病棟の看護師さんが携われるようになりました。

患者さんに電話して容態を聞き、受診に結びつける流れとか、患者さんと会話する時に注意すべき点とか、自分たちでマニュアルを作って体制を整備したことで他院からの相談がかなり増えましたね。院内運用を構築する手順などについて、他院の先生方とカンファレンスを行う機会も増えました。当時はその様な取り組みをしている病院はありせんでしたが、最近では全国的に少しずつ行われるようになってきています。

看護師さんたちも、自分たちがやっていることを他の病院から「教えてください」と言われると気持ちいいですよね。最近はWebのカンファレンスが増え、コメディカルの方が自身の取り組みをより発表しやすくなっていますし。人から評価されることでやりがいを感じて更にまた頑張れるから、息の長い活動になったのだと思います。  

 

 マーケティング担当者が「現場を知ること」は非常に重要。

片岡:ありがとうございます。当時、新しい取り組みを吉田先生とさせて頂いたことに私も感謝しております。さて、これまで医療機器営業についてお話を伺ってきましたが、マーケティングの製品担当者に対して求めるものを教えて頂けますでしょうか。

吉田先生: 私はマーケティング担当の方から新しいアブレーションの技術を体験させてもらっているので、すごく有り難いし、感謝しています。わが国で未承認でも、将来的に臨床応用されるような製品の情報があれば教えて欲しいですね。 あとはやはり、日本の先生方のニーズを本国の開発担当者へお伝え頂けると有難いです。例えば日本人って、欧米人に比べると体が小さいじゃないですか。そこに関連する製品の問題点を開発元に伝え、現場と開発元をつなぐ架け橋のように活動してくれることを期待しています。

あと、マーケティング担当になる方には、マーケティング担当になる前に現場を見ることを大事にしてほしいですね。現場を知らずしてマーケティング担当になっても、なかなか良いアイデアは出てこないですから。現場で営業として多くのことを経験した方は、マーケティングでも活躍できると思いますよ。  

 

片岡:吉田先生はチーム医療などにも力を入れて若い医師の教育にも注力されていらっしゃいますが、人材を育成する上で大切にしていることを教えてください。

吉田先生:「やってみせて、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」という格言を大切にしています。

ここ5年ぐらいで病院経営側の仕事が増えてきて、若い医師を教えるという事がなかなかできなくなってきたのですが、私が育てた先生方が、若い先生方にしっかりと教えてくれています。屋根瓦式にそういう文化が引き継がれているので、安心して見ています。

今後、私自身は次世代の人たちに機会を与えてあげるのが役割なのではないかと思っています。例えば自分が今まで企業の人たちからしてもらったような最新の医療機器を使う機会を若手の医師のために獲得したり、その企業が医療機器を全国展開していくときに、先行ローンチ施設としての経験をもとに彼らに講師をしてもらうとか、そういったことですね。

病院経営側の仕事が増えてきたとはいえ、未だに月2回程度は出張アブレーションを行っています。私が医師を目指した原点は「患者さんに喜んでもらう」ことですから、なるべく臨床業務は継続していきたいですね。

 

片岡:吉田先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

吉田先生:ありがとうございました。  

 

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