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著名医師に聞く。医師が医療機器メーカーに求めるものは?vol.1:兵庫医科大学脳神経外科 主任教授 吉村紳一先生

2022/10/10

2022/10/10

目次

吉村紳一先生は、国内外に於いて脳神経外科の開頭手術、脳血管内手術の2つのアプローチを行うスペシャリストとして活躍されています。

Interviewee: 吉村 紳一 先生  

兵庫医科大学 脳神経外科 主任教授/脳卒中センター長(兼任)

専門分野:脳神経外科全般、外科手術及び血管内手術

最終学歴:岐阜大学大学院卒業

略歴:国立循環器病センター脳神経外科、岐阜大学大学院、日本学術振興会特別研究員、ハーバード大学マサチューセッツ総合病院、チューリッヒ大学脳神経外科、岐阜大学脳神経外科助手、講師、臨床教授、2013年9月より現職

主たる学術認定医・専門医等:日本脳神経外科学会(専門医・評議員)、日本脳神経外科血管内治療学会(指導医・運営委員)、日本脳卒中学会(専門医)、日本脳卒中の外科(指導医)

公式WEBSITE:http://www.e-oishasan.net/site/yoshimura/index.php

ブログ:https://blog.goo.ne.jp/stroke_buster

 

今回は、吉村先生に医師の立場から見た医療機器メーカーに求めるものについて、JCLコンサルティング代表の井口がお話を伺いました。井口は、吉村先生が岐阜大学在籍中時に、ボストン・サイエンティフィックジャパン社の営業として担当させていただいておりました。

 

井口:吉村先生、本日はよろしくお願いいたします。まず、現在(2022年7月)でコロナ禍の状況が2年以上続いておりますけども、症例数の推移や治療に与えている影響を教えて頂けますでしょうか。

吉村先生:脳神経外科では脳卒中患者さんを扱うことが多いのでコロナ感染の影響を強く受けています。脳卒中患者は全例をコロナ疑い(未判定)として受け入れ、診療するよう脳卒中学会から提言されているためです。ただ、最近では受け入れシステムが徐々に充実し、到着直後にPCRを行えば、短時間で結果が出るようになってきているので、その後の院内対応もやりやすくなってきました。

一方で今も解決できない問題は、患者さんの受け入れ自体がストップしてしまうということです。現在も第7波の影響で予定入院がストップされつつあります。自分たちの地域のコロナ患者が増えると、高度医療機関である大学病院には中等症から重症の患者が多く集まるので、満床になってしまうのです。コロナ患者が増えても緊急治療は行われていますが、予定手術が組めなくなるといった影響がでています。

 

井口:医療機器メーカーの病院への立ち入り規制も厳しくなっていますが、コロナ禍において企業の営業、もしくは本社スタッフとのコミュニケーションの方法はどのように変化しましたでしょうか? 

吉村先生:圧倒的にウェブ面談が多くなりましたね。ただし医療機器メーカーにおいては、医薬品メーカーと決定的に違うところが一つあります。それは、カテーテルなどの感触は実際に触ってみないとわからない、という点です。カテやステントなどの柔らかさ、反発力、滑りの良さ等を確かめるのは、ウェブでは無理なのです。

デバイスのちょっとした仕様変更ならカテ室で少し触る程度で良いのですが、大きな仕様変更があった時や新製品が出た時には、そうはいきません。そこで、病院に届け出た上で医局に来てもらい、実際にデバイスに触ってみてクセや使い方を学んで、といった感じで対応しています。

 

医療機器メーカーは治療のパートナー的存在。自社製品だけでなく、他社製品との組み合わせも含めた深い知識、最新文献の内容把握も必要。

井口:ありがとうございます。では、インタビューの本題のほうに入らせて頂きたいのですが、今回、吉村先生のような著名なドクターがどのようなことを考えながら医療機器メーカーと接していらっしゃるか、という観点からお話をお伺いできればと思っております。まず最初に医師の立場として、医療機器のメーカーは一言でいうとどのような存在でしょうか?

吉村先生:そうですね。医療機器メーカーは自分たちのパートナーに近い存在だと思っています。以前、井口さんがいらっしゃった頃もそうでしたが、夜間や休日の緊急時に医療機器を運んでくれて、一緒に治療に立ち会ってくれていたので、本当になくてはならない存在だったのです。

ただ医療機器の種類によっても違うでしょうし、メーカーによっても対応が違う部分があるだろうと思います。最近では立ち会いを禁止するような規則もあるので、以前ほどは治療にダイレクトに関わって頂く機会が減りましたが、基本的にはパートナーだと思っています。

 

井口:今、医療機器営業による緊急対応のお話が出ましたけれども、先生の考える医療機器のメーカーの営業担当者に求めるものをいくつか教えて頂けますでしょうか。

吉村先生:まずは自社が扱うデバイスに精通していることですね。デバイスの種類はどんどん増えていて、違うメーカーの製品を組みわせて使う機会も増えています。ですから、自社のデバイスを他社のデバイスと組み合わせられるかどうか、その場合、どんな感じで使えるか、というレベルまで知識を持って頂きたいんですよ。

例えば、非常に血管の蛇行が強くてうまくアプローチできなかった際に、現在使用されている自社のデバイスに追加で使用できるカテーテルの種類と太さ、そして相性といった知識をお持ちだったら最高ですね。

例えば、「うちの製品は少し手前が太くアレンジされているので組み合わせたときに渋いかもしれません」というようなアドバイスをくれる営業の方もいます。そういう情報はパンフレットで一生懸命数字を見てもなかなかわからないのです。そういった情報をもらえると治療時間を大幅に短縮できたりしますので、非常に嬉しいですね。

あと、特に大事なのはレスキューに関する知識ですね。製品使用時に何かトラブルがあった際にどう対処するか、ということを知っておいて頂けると非常に助かります。

いろんな業界から医療機器メーカーに転職されて来た方もいると思いますから、一朝一夕にベテランと同じレベルまでは到達できないと思います。でもそういう方の場合でも、分からないことがあった時に電話ですぐにベテランに確認できるように手配しておくということで良いのです。知識もバックアップもない状態では緊急治療の立ち合いは難しいかもしれませんね。

一方で、タイムリーな情報提供も医療機器メーカーに求めるところです。新しい製品が出たり既存の製品に変更があった際に、メールでお知らせしてもらったりカテ室に来てもらったりして、迅速に伝えていただきたいですね。

 

井口:最新文献の内容把握も医療機器営業には求められますか?

吉村先生:自社のデバイスはもちろんこと、その競合製品についてどのような情報が出ているかを知っている営業の方は信頼できます。自分たちの治療を想定しながら深い話ができますので、「同じレベルにいる方だな」と感じるわけです。

でも、そういった情報を知らない営業の方もいらっしゃいますよ。「いや、私、このデバイスはよくわかりません。最新文献とかまでは把握していません」みたいな感じになると、我々のような大学病院での対応は難しいのではないかと思います。

情報源が英語の文献や国際学会の発表であっても、社内で協力しあったり、翻訳ソフトを使うなりして、重要な知識だけはピックアップしておいたほうがいいんじゃないかと思います。特に自社製品とその周辺のものに関しては、マストではないでしょうか。

 

私欲を抑えて治療に協力する方に人が集まり、リクエストが集まる。

井口:ありがとうございます。その他、例えばキャラクターや人間性といった側面からは如何でしょうか?

吉村先生:これは、井口さんが現場におられたからこその質問だと思います(笑)。

以前、他社のデバイスを使ってスタートしたところ、立ち合いにきていた方がどこかへ行ってしまったことがありました。こちらは気付いておらず、最初のデバイスでうまくいかなかったため、その方の会社の製品を使うことにしようとしたのですが、現場におられない。あわてて電話をしたら、もう会社に帰ってしまっていた。

一方、夜間も休日もいつも手伝いに来てくれる。その方のデバイスはちっとも使っていなかったのに応援してくれる。そういう方もいました。そういう姿勢がスタッフたちの胸を深く打って、「あいつのデバイスをもっと使ってやろう」となったのです。結局はどこの業界も同じなのではないでしょうか。私欲を抑えて治療に協力する。そういう方に人が集まり、リクエストが集まるんじゃないかな、と私は思います。

井口:私もそう思います。

吉村先生:そういう姿勢でいてもうまく行かないことも多いのかもしれません。でも、いつも頑張っている人は応援したくなりますよね。やっぱりそういう「人間力」といいますか「人柄」みたいなもの、「無償の努力」みたいなのが報われると私は思ってます。

 

井口:これまでの先生のご経験の中で、営業の方からのサポートに関する印象的なエピソードはございますでしょうか?

吉村先生:たくさんあるんですけれど、その中の1つをお話すると、手術で予期せぬトラブルが起きて、どうしてもあるステントが必要なんだけど院内にない、ということがありました。するとそのメーカーの方が名古屋から岐阜まで車で走って持ってきてくださったことがありました。届くまでの間、なんとか他の方法で粘って、ステントが届いた結果、患者さんが救われたのです。あれは深く感銘を受けましたし、私たちも本当に助かりました。一生忘れません。

ただ、その粘っている間、徐々に患者さんの状態が悪化していて、自分も極度に緊張していたのです。実際にデバイスが到着して、いざ誘導するときになって一手順足りないことに気付いて。自分の馬鹿さ加減にちょっと呆れました・・・。慌てて対応して、うまくいったんですよ。うまくいったんですけど、自分たちも人間なのでやっぱり緊張してしまうことがあるんです。やはり患者さんの命や人生がかかっているわけですから。

井口:本当に脳の手術は1㎜の差異で患者様の状態に影響が出ますからね。

吉村先生:そうなんですよね。外科手術や血管内治療だとその責任が本当にダイレクトなんで、トラブルになりかけた時はものすごく緊張するんですよね。

そういう時に、「神」対応をしてくれた方がいました。「必要になるかもしれないと思って、レスキューのための製品を車の中に置いてあります」って言うんですよ。目の前がパッと明るくなる感じですよ。あとは、「このワイヤーだったら長さが足りるかもしれません」と、貴重なアドバイスをくれる方もいて、助かったこともありました。そういう方はまさに「パートナー」ですよね。

売上に関わらないことまでやってくださったり、夜間や休日等に対応して頂いたり、さきほど紹介したように、窮地に立たされたときに一緒に頑張ってくれる方。こういう方々には本当に今でも頭が上がらないですし、正直、友人のように思っています。

井口:吉村先生はどのような基準で製品を選択していらっしゃるのでしょうか?

吉村先生:これは明確で、一番いいものを選びます。個々の患者さんの治療において、ベストと思えるものを選ぶ。使い慣れてるかどうかというところも含めて、「自分が使うのであればこれがいい」という選択肢を取るのです。このため、多くのケースで第一選択は同じになることが多いです。

それを切り替えるのは明らかにそれを上回るデバイスが出たときですね。やはりそこは患者さんファース
トですから、良いものに切り替えます。

ただ、幸い当院では症例が多い為、ほぼ全メーカーのものを使えています。使用する頻度が少ない企業とも、持ちつ持たれつだと思っていますので、製品によって治療のパフォーマンスが変わらなと考えた場合には、使用頻度の少ないものを使うとか、ある程度、バランスを取るようにしています。

 

 日本企業にはフロムジャパンの新製品開発にチャレンジしてほしい。そのためには協力を惜しみません。

井口::ありがとうございます。これまで営業中心にお話を伺っていますが、マーケティングの製品担当者に対して求めるものを教えて頂けますでしょうか。

吉村先生:いくつかあるんですけれども、一つはやっぱり最新情報の提供ですね。とくに海外での使用経験、使用法などについて。例えば今まででしたらヨーロッパが圧倒的に新製品の使用開始が早いので、その使用経験、論文になる前の情報、学会の情報、シングルセンターでたくさん使ってるところのTipsみたいなものはぜひ知りたいと思います。これは主に外資系企業に求めるものですね。

日本企業には、我々のフィードバックが聞き入れられやすいという大きな利点があるので、アジア人、日本人の特性に応えるような改良、バージョンアップ等を積極的に推進することを期待しています。

日本企業もすごいいいものを作っていて、もっと世界に出してもいいんじゃないかなと思うものがたくさんありますからね。

井口:日本企業ですと、新製品の開発に関してはいかがですか?

吉村先生:そこはまさに新たな医療機器の創出に力を貸してほしいし、逆にアイデアがあればこっちもサポートを惜しまないので、ぜひフロムジャパンとして製品を出していきたい。手を取り合って一緒にやっていきたいと強く思っています。

井口:そうなると現場レベルではなく企業上層部の決断が必要になりますね。

吉村先生:そうですね。日本は全く新しいものを作るということを、これまで「できなかった」のではなくて、「やらなかった」という気がしてます。

現場の若手、中堅からの意見を最終的に採択するかどうかは経営陣の判断になると思いますので、日本全体の活性化のためにも是非ともチャレンジしていただきたいと思いますね。

我々は本当に皆で協力しますよ。新しいデバイスを開発し、海外へ積極的に展開してほしい。すごくいいデバイスなのに日本と近隣の国でしか使われてない物もあります。ぜひとも広く世界にチャレンジしていただきたいです。

井口:私も吉村先生が関わったフロムジャパンの素晴らしい製品が、国内外で使用されることを楽しみにしております。本日はありがとうございました。

 

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