今回のキャリアインタビューでは、臨床開発分野で豊富な経験をお持ちで、現在は医療機器メーカーの臨床開発部門シニアマネジャーであるSさんに、医療機器臨床開発の現状と今後、その魅力やキャリアなどについてお話を伺いました。【前編】【後編】に分けてお送りします。
井口:本日は特に医療機器メーカーにおける臨床開発としてのキャリアや業界の動向など、いろいろとお話をお聞かせ頂きたいと思います。 よろしくお願いいたします。
Sさん:よろしくお願いします。
コロナ禍において臨床開発の業務効率化は一気に進んだ
井口:まずは、コロナ禍において臨床開発の業務は変わりましたか?
Sさん:変わりましたね。皮肉なことですが、業務改善という意味においてはプラスの影響を与えたと思っています。
まず、先生方がWebミーティングに慣れてくれたので、飛行機に乗って現地に行かなくても説明ができるようになりました。あと、臨床開発は結構ハンコ文化だったのですが、コロナをきっかけに電子署名が導入されてすごく楽になりましたね。
紙からの離脱と、 Webミーティングを使えるようになったことは、もし私がモニターだったらすごく仕事がやりやすくなったと思います。
井口:臨床開発モニターは出張が多いというイメージでしたが、かなり減ったのでしょうか?
Sさん:そうですね、出張は8割以上減ったのではないでしょうか?皆さん結構在宅でお仕事されています。 出張が好きな方はつまらないかもしれませんが・・。
井口:少し前ですが営業の方にお話を伺った時に、ベテラン営業の中には Web ミーティングのシステムに慣れない、やりたがらないと等の理由でどんどん取り残されていく人もいる、という話を聞いたのですけれども、モニターの方々はどうですか。
Sさん:弊社は結構若い組織だからか、そういうケースはあまりないと思います。
井口:あと、これはマーケティングの方と話していたのですが、かなり効率的に顧客訪問できますよね。
今までマーケティングと営業が地方で同行するとなると、飛行機に乗って、車で移動して、顧客をまわれても一日3件くらい。しかしWeb ミーティングであれば全国各地で1日10件面談を組むことも可能であると。臨床開発業務においても同様のことが言えるでしょうか?
Sさん:そうですね。担当できる医療機関数は確実に増えますよね。
井口:一方で在宅勤務が多くなり、面と向かってのコミュニケーションが減少することで弊害は生じていますか?
Sさん:あまり感じないですね。臨床開発は元々一人で仕事をするのが好きな人が多いかもしれないです。
井口:コロナ禍において、治験そのものは影響をうけていますか?
Sさん:もちろん影響はあります。医薬品と違って、医療機器の治験はオペを伴うので、オペ予定がキャンセルになり治験への登録が遅れることがありました。
あと医療機器の場合は、治験を始める際にプロクタリング(治験を始める際に、治験製品を使用した手術の経験を十分に積んだ監督医師が何例かに立ち会い、手技の監督を行うこと)が必要になる場合があります。
例えば海外からそういったドクターを呼ばないといけないとなった時に、今は移動が制限されているので、治験開始が遅れるという影響は出ますよね。
ただ、それも将来的にはテクノロジーの力によって、遠隔やバーチャルで同様の環境を作れるようになるかもしれませんね。
医療機器メーカーの臨床開発職は、まだまだ認知度が低い
井口:さて、そのコロナは未だ収束の兆しが見えないですが、医療機器メーカーの採用はかなり活発になっています。 Sさんが在籍中の医療機器メーカーでも臨床開発部門の採用活動をされていると思いますが、状況は如何でしょうか?
Sさん:そうですね。まず以前から感じていることなのですが、「医療機器メーカーの臨床開発は、まだまだ認知度が低い」ですね。
私がCROでモニターをしていた十数年前もそうでしたが、今でも医療機器メーカーのことを大部分のCROのモニターは知らないと思います。
製薬企業の人も同様で、医療機器でどういったメーカーがあって、どういった臨床開発をやっているか等、あまり知らないと思います。
中途社員と話をしていても、ほぼ8割の人が「エージェントから聞くまでこの会社のことを知りませんでした」って言いますね。
井口:私たちエージェントも、認知度を上げるためにもっと頑張らないといけないですね・・・。では、次にSさんの考える「医療機器メーカーの臨床開発職として働く魅力」について教えてください。
医療機器メーカー臨床開発の魅力、「短期間で得られる経験の幅」
Sさん:まず、医療機器は医薬品と比べて治験の期間がかなり短いですね。もちろんケースバイケースですが、2年とか3年でしょうか。
例えば今から10年であと何製品の臨床試験に携われるか、という視点で見ると、医療機器のほうに分があると思います。もちろんその会社に臨床試験の絶対数がないといけませんが。
井口:最近、治験で言うと医薬品も期間が短くなっているという話を聞きますけど、どうなのでしょう?
Sさん:そうですね。ただ、 医薬品の治験はⅠ相からⅢ相までのフェーズがありますが、医療機器は通常Ⅲ相のデータのみで申請を行う場合が多いので、自ずと期間は短くなります。しかも医療機器の場合は 被験者数も医薬品に比べて少ないので。
井口:製薬会社の臨床開発部門から医療機器メーカーに転職し、複数の医療機器の臨床試験を経験し、その経験をもとに製薬企業に戻る、というケースはありますか?
Sさん:ありますね。戻るときにはマネジャー以上の高いポジションで戻るというケースもあります。臨床試験結果的に医療機器メーカーは踏み台になったパターンですが。
井口:それはもしかして、Sさんの話じゃないですか?
Sさん:そういう転職もありました(笑)臨床試験によって関係者が違うので、多くの試験を経験するということは、多様なステークホルダーマネジメントを経験しているという点で評価は上がります。
井口:Sさんは、製薬企業から医療機器メーカーの臨床開発職に転職した経験もありますが、その時の理由は何だったのでしょうか?
Sさん:製薬企業の時には組織が固まっていて上のポジションが空きそうにないし、良くも悪くもプロセスが確立して業務が機能分化されていたので、自分のやりたい事がなかなか試せないっていう閉塞感がありましたね。
先日話をした製薬企業勤務の若手が、「自分はある試験1本だけに2年も3年も関わっている。組織は上が詰まっていて水平異動も難しく、自分が関わる領域も限定されてしまう」 と話していました。私が転職した時の状況に似ていますね。
【後編】現役シニアマネジャーに聞く 医療機器メーカー臨床開発職の魅力、キャリア、今後の展望 へ続く