キャリアインタビュー:【前編】現役シニアマネジャーに聞く 医療機器臨床開発の魅力、キャリア、今後の展望 から続く
医療機器メーカー臨床開発のもう一つの魅力は、「自己裁量」。裁量の大きさを楽しめる人がフィットする。
井口:対して医療機器メーカーはどうでしょう?
Sさん:もちろん会社の個別事情はあると思いますが、複数の臨床試験に同時に関わる等、短期間で比較的幅広い経験が積める可能がある、というのと、自分の裁量権が比較的大きい部分はあるのではないでしょうか?
医療機器メーカー全体的に臨床開発の人員も少なく、製薬企業と比べると組織もまだまだ成熟していないという背景がありますので。関わる業務範囲は広くなるので、忙しいといえば忙しいですが
現職の医療機器メーカーでも、社員に裁量を与え、社員が「こうしたらいいと思う」と言ってきたことを、「じゃあやってみたら?」っていう風土・環境がありますね。
井口:医療機器メーカーの臨床開発にはどういう人がフィットするのですかね?
Sさん:私の知る限り、医療機器メーカーで結果を出してステップアップしている人は、「自分で考えてどんどん仕事を前に進めていくタイプ」が多いという印象があります。対して、裁量は与えられても、「そもそも自分で決めるのが嫌い、苦手」という人は合わない方が多いかもしれないですね。
CRO出身のモニター経験者はモニタースキルが高いケースが多い
井口:医薬品メーカーと医療機器メーカーの比較でお話を伺いましたが、CROはどうでしょう。CROでのご経験者にも欲しい人材が多くいらっしゃると思いますが。
Sさん:製薬企業の出身者と比べても、「モニターとしてのスキル」という観点で言えばCROの出身者の方のほうが高い場合も多いです。
井口:それはどうしてでしょうか?
Sさん:一般的にはCRO のモニターの方が試験をこなしている数や種類が多いですし、何本かの臨床試験を掛け持ちで担当します。受託する製薬会社によって、試験の進め方の作法が結構違ったりしますが、それらを同時にまわすことによって鍛えられていますね。
CROは沢山件数をこなすために段取りよく試験を進めるノウハウを蓄積しているから、そこから学べる部分もあるのではないでしょうか。
井口:例えばCRO モニター経験何年ぐらいで欲しい人材になりますか?
Sさん:基本的には3年あればと思っています。5年ぐらいある方は、もう本当に喉から手が出るほど欲しい(笑)でも、最初にお話しした医療機器メーカーの知名度のなさから、まずは製薬企業を皆さん検討するのですよね・・・。
製薬企業・CROからの転職で、入社後短期間でスタディマネジャーとなるケースも
井口:弊社にも、製薬企業、CROに関わらず現職モニターで転職を機にスタディマネジャーをやりたいという希望の方が登録されてきます。製薬企業やCROのモニターを、いきなりスタディマネジャーポジションで採用したケースはありますか?
私の経験では、なかなかないケースだと思いますが。
Sさん:私の経験ではないですね。よっぽど優秀な方なら可能性はあるかもしれないですが。あと製薬企業も色々で、モニターとはいえ実質スタディマネジャーとして機能している方もいるので、そういうケースは例外だと思いますが。
もしくは、未経験でスタディマネジャーにはなれないですが、例えばものすごく英語ができるので、その英語力を生かして入社時からスタディマネジャーの部署に入り、そこで仕事を覚えながらスタディマネジャーを目指すというパターンはあるかもしれないですね。
井口:入社後短期間でスタディマネジャーになったケースはありますか?
Sさん:それはありましたね。早ければ半年くらいでなった方もいたと思います。
井口:そういった方に共通することは?
Sさん:やはり、まずは自分の望むキャリアパスがしっかり描けていること、入社後のモニタリングでも先生からきっちりと信頼を得て結果を出すこと、部門の中の他の人にも自分の描くキャリアパスを公言して機会を求めること、等でしょうか。
もちろん外資系では英語も必要ですね。
井口:さっきの話ではないですが、そのスタディマネジャーの経験をもって製薬企業に戻ってもまたキャリアを積めるっていう話ですよね。
今後のトレンド‐医薬品、医療機器、デジタルのコンビネーション製品。そして市販後データのより一層の活用。
Sさん:そうですね。また踏み台の話ですが(笑)私は別に踏み台にしてもらってもいいと思っています。結局本人が自分にとってベストの選択をするのは止められませんから。
ただマクロの視点で臨床開発の世界をみると、今後は医薬品と医療機器のコンビネーションプロダクトが増えてくる、というトレンドあります。
となると、医療機器メーカーへ転職して製薬企業でのキャリアの踏み台にするというよりは、医療機器の臨床開発という経験をスキルセットの一つとして持っておくことは非常にプラスになるのではないかと思いますね。
あとは、ウェアラブルの機器や、AI医療機器なんかのデジタル系ですね。それらも加えてセットになった製品も出てくると思います。そういった分野の経験を積んでおくのもプラスだと思いますね。
井口:なるほど、面白いですね。ほかに何か臨床開発関連のトレンドはありますか?
Sさん:やはり、医療費増大を抑制する方向性と、費用対効果評価制度(注:医薬品や医療機器の費用対効果を評価し、それに基づいて保険償還価格/薬価を調整する制度)の導入に見られる医療機器の価格設定にも医療経済的なアプローチが求められてくる状況下において、Market Access、Government affairs、医療経済と呼ばれる分野の人材ニーズがすごく高まっていますよね。
井口:企業として有利な価格と償還を獲得するため、データをまとめ、戦略を練り、政府をはじめとした関係者にアプロ―チする部門ですね。確かに最近弊社への依頼も多くなっています。
Sさん:今、FDAでもPMDAでも、リアルワールドデータ(Real World Data:日々臨床から得られる患者さん単位のデータ)と、そこから導き出されるリアルワールドエビデンス(Real World Evidence)の活用を推進していくという流れになっています。
臨床開発も今まで市販前の仕事がメインだったけれども、今後は市販後の仕事が増えてくると思いますね。
例えば従来のPMSの枠を超えて、市販後の膨大なデータを利用して医療経済性を分析するとか。
そういった職種では、クリニカルデータを扱うので、臨床開発の知識・経験も生かせるものがあると思いますし、臨床開発経験者のひとつの大きなキャリアパスになり得ると思います。
井口:それは、現在臨床開発に従事されている方にとって非常に興味深いですね。本日は非常に参考になるお話をありがとうございました。またぜひよろしくお願いします。
Sさん:ありがとうございました。